Q登記事項証明書の所有者は現在の所有者ではないことがある?
A はい。登記事項証明書・全部事項証明書などに記載されている所有者は、現在の所有者と異なる場合があります。
(登記事項証明書や全部事項証明書は登記記録を印刷したものです。登記記録は昔の登記簿謄本の事です。 )
なぜなら、不動産(土地・建物)の所有者が変わっても登記手続き(申請)を行わないケースがあるためです。
具体的に、下記の事例で説明します。

上記の事例で次のケースでは、どのような違いがあるのでしょう?
- 登記手続き(申請)を行わないケース
- 登記手続き(申請)を行ったケース
登記手続き(申請)を行わないケース
加藤太郎は相続により土地Aの新しい所有者になりました。
しかし、登記手続き(申請)を行いませんでした。
このような場合、登記記録の所有者は変更されず、登記事項証明書の所有者(加藤一郎)と現在の所有者(加藤太郎)が異なります。
下記のとおり、登記記録(登記事項証明書など)の所有者は加藤一郎のままです。
登記手続き(申請)を行ったケース
加藤太郎は相続により土地Aの新しい所有者になり、登記手続き(申請)を行いました。
登記手続きが完了し、登記記録の所有者が加藤一郎から加藤太郎へ変更されました。

登記記録(登記事項証明書など)は下記のとおりです。
令和3年1月26日に相続が発生し令和3年7月30日に相続による所有権移転登記(相続登記)を行い、所有者が加藤太郎へ変更されています。
登記事項証明書の所有者(加藤太郎)と現在の所有者(加藤太郎)が同じです。


登記手続き(申請)を行わなかったケースでは登記記録が更新されず、登記事項証明書に記載の所有者と現在の所有者が異なります。
一方、登記手続き(申請)を行ったケースでは登記記録が更新され、登記事項証明書に記載の所有者と現在の所有者が同じです。
どうしてこのような事が起こるのでしょう?
どうしてこのような事が起こるのでしょう?
理由は次のとおりです。
不動産(土地・建物)の所有者が変わった時に...
- 登記をすることを知らなかった
- 義務ではないから登記しなかった
- 登記をするのが面倒だった
- 営業されるのが面倒で、わざと登記をしなかった
順番に見ていきましょう。
登記をすることを知らなかった
不動産登記は当事者より登記申請しなければ、原則、登記記録は変更されません。(不動産登記法 第16条第1項)
しかし「登記をすることを知らなかった」という理由で登記されず、不動産(土地・建物)の所有者が変わっても登記記録に反映されていないケースがあります。
義務ではないから登記しなかった
登記記録は、不動産(土地・建物)の物理的現状を記載する「表題部」と、権利関係を記載する「権利部」に分かれます。
そして「表題部」の登記申請は義務であり行政上の罰則があるのに対し、「権利部」の登記申請は義務ではなく行政上の罰則もありません。
不動産の所有者が変わった際に行う登記は「権利部」の登記になり、登記申請の義務や行政上の罰則がありません。
そのため「義務ではないから」という理由で登記が行われていないケースがあります。
参考:登記記録「権利部」の登記申請は現在任意ですが、以下の2つは義務化される予定。
「相続による所有権移転登記(相続登記)」の義務化は、2024年4月1日から施行。
「登記名義人住所氏名変更登記」の義務化の施行日は未定。
登記をするのが面倒だった
登記をすることは知っていても「登記をするのが面倒」という理由で登記が行われていないケースがあります。
営業されるのが面倒で、わざと登記をしなかった
不動産業者などは登記記録から、その不動産(土地・建物)の所有者を調べて営業をしてくる事があります。
そのような事を知っている場合、不動産業者などから営業をされる面倒を避けるために、わざと登記を行わないケースがあります。

以上の理由から、不動産(土地・建物)の所有者が変わっても登記手続き(申請)を行わないと、登記事項証明書の所有者が現在の所有者と異なります。
登記事項証明書の所有者が現在の所有者であるかを見極める方法
登記事項証明書の所有者が現在の所有者であるかを見極める方法はあるのでしょうか?
具体的には次の方法があります。
- いつ登記がされているか確認し、その日付が直近であれば現在の所有者である可能性が高い、古い場合は現在の所有者ではない可能性が高い
- 登記されている所有者の住所地に赴き確認する
下記の登記記録(登記事項証明書など)をご覧ください。

上記の登記記録(登記事項証明書など)では、明治42年6月5日に売買により登記を行い鈴木正一がこの土地の所有者となっています。
しかし、その後は登記されていないため、登記事項証明書の所有者が現在の所有者と異なる可能性が高いと考えられます。